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発起人Kの独り言VOL5「全世界150足限定。プーマの『マラドーナ スーパーリメイクFG』を見て、気づいてしまったこと」

加茂周さんは恩人である、という話は前回書いた。わたしが熱烈なプーマ・マニアであることは何度も書いた。なので、本当に悩んだ。果たして書くべきか書かざるべきか。

Icon kaneko 金子 達仁 | 2016/08/02
<発起人Kの独り言VOL4はこちら>

若いころのわたしであれば、問答無用、有無を言わさず書いていたに違いない。書かれる側の心情など、気にもしないで。

というか、自分がそう思ったのならば、そこに自分なりの真実を見いだしたのであれば、書こうか書くまいか迷うこと自体が恥だと考えていたかもしれない。

ま、何のかんのもったいぶりながら、結局は今回も書くんですけどね。

最終的な引き金を引いてくれたのは、マスター・ナガイからの電話でした。

「あのさー、今度のスパイク・ウォーズ、お願いというかリクエストがあるんだけど」

 「ン? 何?」

 「プーマからさあ、マラドーナが現役時代に履いてたスパイクを復刻したヤツ、出たでしょ。カーフ革の、すげえ高いヤツ。全世界150足限定とかで」

「ああ、出てたね」

「あれ、履かせてほしいんだ。というか、あれ、欲しい(笑)」  

おお、マスター・ナガイ、まさかあなたまでもが! 少なからずショックを受けたわたしだった。というのも、彼がリクエストしてきたスパイクこそが、我が悩みの根源だったからである。

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そのスパイクの名は『マラドーナ スーパー リメイクFG』。全世界限定150足のうち、日本へ割り当てられた30足を独占販売するサッカーショップKAMOのホームページには、こんなキャッチコピーがつけられていた。

『世界150足限定、日本国内ではサッカーショップKAMOのみ30足限定販売!ディエゴ・マラドーナが「神の手」「5人抜きゴール」により歴史を刻んだ1986年メキシコW杯イングランド戦から30年を記念したリミテッドブーツが登場!マラドーナが当時着用していたシューズを再現した、柔らかくしなやかなカーフレザーアッパーと、特徴的なステッチ。シュータンにはPUMAのクラシックなロゴにマラドーナの顔をデザイン──』

お値段は実に3万4560円。ただ、リアルタイムでマラドーナを見てきた世代であれば十分に買える値段だし、実を言えばわたし自身、写真を見るまでは買う気満々だったのだ。

実物の写真を見るまでは。 見た瞬間、気持ちは雲散霧消した

これがたとえばカール・ハインツ・ルムメニゲが当時使用していたアディダスのスパイクだというのであれば、わたしも気づかなかった。ラウドルップのパトリック、カブリーニのディアドラだったとしても、まったくわからなかった。

だが、これはプーマとマラドーナの話だった。あの時、彼が履いていたのがここで紹介されているようなスパイクでは断じてなかったことに、わたしは気づいてしまった。

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証拠はすぐに見つかった。 本棚から引っ張りだしてきた『サッカー・マガジン』の86年9月号。忘れもしない、学生の分際で150万円近いローンを組み、開幕から決勝まで観戦してきたメキシコ・ワールドカップの特集号である。

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その5ページ目に、マラドーナの全身どアップがある。光の加減、スタジアムの気配から察するに、オリンピコ68で行われたブルガリア戦ではないかと思う。通常、カメラマンがピントを合わせるのは選手の顔になるため、スパイクはちょっとピンがボケているか、そもそも写っていないことも多いのだが、この写真はバチピンでマラドーナのスパイクをとらえていた。

あ、やっぱり。もちろん、写真1点だけですべてを判断するのは危ない。幸い、我が家には75年からのマガジン、イレブンが揃っている。通常号だけでなく、写真集も買ってある。で、片っ端から調べてみたところ──。

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結論から言って、メキシコでのマラドーナは少なくとも3種類のスパイクを使用していたことがわかった。2種類の取り替え式と、1種類の固定式。ただし、それはあくまでもソールの話で、アッパーの形状はいずれも同じだった。すべて、ベルトマイスターなのである。  

今回、サッカーショップKAMOが発売したスパイクは、マラドーナの活躍を受けて86年の秋口に発売されたマラドーナ・モデルであって、マラドーナがワールドカップで履いていたものではない。同じなのはカーフというアッパーの素材だけで、あとは形状もソールもすべてが違う。

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だいたい、ベロが白くない。この大会におけるアルゼンチン代表のプーマー(プーマのユーザー)で、“白ベロ”以外のプーマを履いていたのはブルチャガだけだったのに。

ま、そんなことフツーは誰も知らんわな。ご存じの方がいらっしゃるかもしれないが、サッカーショップKAMOの社長さんは、加茂周さんの弟さんである。加茂一族サイドからの見方をすれば、またしてもカネコタツヒトにいちゃもんをつけられた、ということになる。

それも、よりによってプーマのことで。なんか、申し訳ないというか、またかというか。それより、俺の中には好きなヒトに噛みつきたがるDNAが組み込まれてるんだろうか。

昔だったら、きっと全然平気でした。ただ、齢50をすぎ、善人ぶりたがる傾向が強くなってきたいまの気分としては、正直、やっちゃった感が否めません。てか、白ベロのベルトマイスターなら、5万円でも買うんだけどな。

写真/清水知良


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