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日本人初!プロのホぺイロになった松浦紀典が語る物への矜持 Vol.2「カズさんがイタリアから帰国して変わったこと」

日本人初のプロのホぺイロとして東京ヴェルディや名古屋グランパスなどで25年に渡り活躍してきた松浦紀典さん。物への矜持や印象に残っている選手のこだわりなどについて約8時間に渡り聞いてきました。Vol2.では当時のヴェルディの選手のこだわりとカズさんのこだわりについて聞きました。

Icon 16466945 810048175800857 1247399717 n 菊池 康平 | 2017/07/05
<インタビュー第1回はこちら> 
 

――当時のヴェルディの話を聞かせてもらいたいのですが、北澤豪さんも、革靴などにこだわりがあるじゃないですか。そういうこだわりはいかがでしたか?  

松浦そうですね。皆さん人と同じ物を嫌がる人達ばっかりだったので、武田修宏さんにしても。だから同じ物でも色が違うとか、最後はオーダーで革靴を作られていました。  

スパイクもそうですよね。モデルはベースがあるんですけど、ステッチを変えたりですとか、中のスポンジを抜いたりですとか、遠くからだと分からないんですけど、初めてヴェルディに入ってプロ選手のスパイクを手にした時になんだコレは!って思いましたね。  

――どんな感じですか?  

松浦
例えばステッチが多いとか、中のスポンジがないとかです。  

――市販品と全然違うんですか?  

松浦全然違うんですよね。見た目は市販品なんですけど、アウトソールが別の物になってるとか。今日は持ってこれなかったんですけど当時の武田さんのスパイクはこのベロの部分(シュータンの部分)が倍あるんですよ。  

――それは何を求めて?  

松浦
動く度にシュータンも動くので目立ちますよね。そうすると相手のDFにとっては、足を動かすたびにシュータンが動くので気になるのでは。

――フェイントになるみたいな原理ですか?  

松浦そうですね。こうチカチカするからっていう。そういう効果もあるって本人が言ってました。あと大きいから目立つっていう、最後はそこなんですけど(笑)


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――最後は目立ちたいからなんですね(笑)それこそKING GEARで去年まで履き比べをして頂いた永井秀樹さんも当時ヴェルディにいらっしゃったと思うんですけれど、永井さんの当時のスパイクへのこだわりってどうだったんですか?
 

松浦永井選手は本当にジャストフィットを好んだので、ちょっと緩かったりとかすると「これ俺のじゃないでしょう!」っていうくらいの繊細な感覚の持ち主でしたね。  

――前の取材ではホールド感とかすごい気にしていたみたいなことを仰っていましたね。  

松浦:「包み込まれる」とかそういう感覚ですね。永井選手は当時のプーマさんのスフィーダというスパイクを履いてたんですけど、スフィーダの市販品の物は中のスポンジが1枚くらいなんです。それを3枚くらい入れてました。今でいうと低反発みたいなスポンジを入れていて最初キツいんですよ。  

でも足を入れると自分の足にフィットするんです。そして、わざと重くしてました。なぜかっていうとそのボレーキックの時に軽いスパイクだとテコの原理じゃないですけど。  

――力が入りにくいんですか?  

松浦
そうですね。振り抜けないっていうので、わざと重くしていましたね。永井さんとは歳が同じなんですよ。最後の試合の時のシューズをプレゼントで頂いたんです。ちょうどパラメヒコだったんですけど。シュータンの所に『サンキュウ!まっちゃん!』って書いてくれて嬉しかったです!  

――良い話ですね!!ホぺイロ冥利につきますね。 まだ現役のカズさんとの思い出を聞かせてください。  

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松浦自分の仕事は選手やスタッフの皆さんにピッチで最高のパフォーマンスを出して頂くことです。カズさんは色々と世界で経験されているので、プロ選手っていうのは荷物は持たないって言うんですよ。  

だから当時のヴェルディはベゼーハさんと私で全て管理していたので、手ぶらでグラウンドに来て、手ぶらで帰れる環境を作っていてたんですけど、当時の他のチームはスパイクを選手が持ったりとか、チームによってはユニフォームも選手が試合会場へ運んでいるチームもありました。  

試合会場でそういうのを見ると「マツ、本当に世界に追いつくには、ホペイロからしっかりしないと追いつけないから!とにかく俺たちも頑張るからお前達も頑張れ」って。そういう風な話は良くして頂きました。  

――テレビか何かで見たんですけど、「俺は一球に魂込めるからお前も魂込めろ」っていうのを。  

松浦それもいつも『マツ、魂込めてるか?』って言われて「込めてます!」って返すんですけど「ほんとか?」っていつも言われてました(笑)  

――ジェノア(当時のセリエA)から帰ってきた後やクロアチアもそうだと思うんですけど、海外から帰って来た時にカズさんの要求が変わったとか、そういうのはありますか?
 

松浦イタリアはヨーロッパもそうなんですけど、グランドが緩いので取替式のスパイクをけっこうみんな履くんですけど、それまでカズさんは雨でもほとんど固定しか履かなかったんですよ。でもイタリアから帰って来たら取替も履くようになったのと、後はガウンを着るようになりました(笑)  

――ガウンですか?(笑)  

松浦はい(笑)バスローブですね。イタリアはそれぞれのロッカーにバスローブが置いてあるんですよ。   

――イタリアがきっかけだったんですね。  

松浦どちらかと言うとバスローブっていうとタオルの素材じゃないですか。あれだと1回着ると洗って乾かすのにけっこう時間がかかるんですよ。分厚いので。
   

イタリアのマイクロファイバーのバスローブがあって、そこの方と私が偶然知り合いでした。2011年の復興支援マッチの時に私はJリーグ選抜のホペイロを担当出来て、カズさんと同じチームだったんです。
 

その時にカズさんに「このバスローブを着てみて下さい!」って言ったら「めちゃくちゃ軽いし、すぐ乾くのでこれ良いな!」ということで、それから使って頂いています。  

――今はそれを着られているんですね。  

松浦そうですね。冬はもしかしたらタオル地なんですけど、夏とかはそれを着られていると思います。   

――フランスW杯のメンバーに落選した後はどうだったんですか?カズさんは練習場へすぐ直行されたというのを当時のニュースで見ましたが


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松浦どの選手がいつ来ても練習出来る準備は常に整えていました。ただ何て声をかけていいのかわかりませんでした。  

慰めの言葉っていうのもないですし、普段通りに接するのが一番いいなって自分で勝手に判断していつも通り「お疲れ様です!」って言ったら「おぅ!元気か?」って言って頂いて。逆に元気をもらいました。


vol.3に続く。 http://king-gear.com/articles/401


松浦紀典さんのオフィシャルブログ
http://blog.livedoor.jp/roupeiro_matsu/

取材協力/株式会社ミズノ