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英雄たちが愛した歴史的スパイクVOL.3 ~レトロではないプーマ・トレロ編~

今ではレフリー以外あまり履かない黒に白ラインのサッカースパイクですが、おそらく2000年以前は定番のカラーでした。今回は80年代のモデルとしては奇抜な配色で、とても高額だったプーマ取替え式スパイクのトレロについてです(図1)。マラドーナが86年W杯で神になった時のスパイクの原型だと思われるモデルで、新開発のソールパターンでした。このソールは細かい改良は多少ありましたが、その後長い間使われていた画期的な物でした。トレロは昨年復刻版が発売されました。

Icon 29634314 1815368455432881 1085668874 o 小西博昭 | 2018/04/09
(スパイクブログ始めました。https://maradonaboots.com/80年代のサッカースパイクの色は黒に白ラインが定番でしたが、1982年スペインW杯の時にデビューしたプーマ・トレロは当時珍しい黒・金色カラーでした(モデル番号は496)。トレロは闘牛士の意味で、レトロではありません。プーマのHP(http://about.puma.com/en/this-is-puma/history)で、神が最初のW杯で履いたスパイクとされていますが、実際に履いていたのは大会後のバルセロナ時代で、82年W杯のアルゼンチン代表でトレロを履いていたのは、フィジョール、ガジェゴ、カルデロン、ケンペス選手だったと思います(図2)。当時高校生だった私にはサッカー雑誌に載っているだけの超高級品で、手に入れることなど考えもしませんでした。 

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1 プーマ・トレロ。28千円は当時のサッカースパイクで一番高価だったと思います。

80年代前半のサッカー界で最も人気があったのは高校年代で、冬の選手権決勝は国立競技場が満員札止めになる年もあり、サッカー王国静岡代表の清水東高校や、東京代表の帝京高校などがとても強くて人気がありました。

強豪校の選手のスパイクは高級かつ個性的で、帝京はヤスダのカラフルなスパイクを使う選手が多く、清水東はユニフォーム同様、プーマユーザーが多かったと思います。中にはトレロユーザーもいたようですが、外国のきれいな芝のグランドに比べ、日本のグランドでは真っ黒になってしまい、金色がまったく映えなかったようです(図2右端)。

ちなみに、その後残念ながら廃業してしまったヤスダのスパイクがクラウドファンディングで限定復活するそうです。(http://route-f.com/project/s/project_id/6

クラシックスパイク好きには嬉しいことですが、パラメヒコやコパムンディアルは廃盤にならないでほしいものです。
 

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 図2 左からトレロを履く神(diego_maradona101さんのインスタグラムより)、ケンペス選手(ゲッティイメージズ)、フィジョール選手(1982年サッカーダイジェスト増刊号復刻版p40)、清水東高校の選手(上はGK大川選手、下は松下選手のスパイク:ゴール2月号増刊p15p55)。

フィジョール選手は
GKですが、背番号7番。当時のアルゼンチン代表はAで始まるアルディレス選手が1番で、10番の神はMですが特別扱いでした。ちなみに黄色の9番はブラジルFW・セルジーニョ選手でスパイクはソクラテス選手も履いていたトッパーです。
 
さて、古いスパイクを探し始めてから知り合った、前回ご紹介した頼みのマレーシアの人もトレロは持っていなかったようで、見つけることは半ばあきらめていました。ところが、別の海外オークションサイトでトレロが出品されているのを見つけて入手することができました。

さらにその後、同じ出品者(イタリア)からトレロが確か7、8個ぐらい次々と出品され、結局5つも購入してしまいました(図3左)。

きっと、古いスポーツ用品店で売れ残り、倉庫に眠っていた物でしょう。どれも内張りは劣化しており、いくつかは修復してもらいました(図3右上)。また最近トレロの復刻版が発売されました(右下)。 

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 3 箱入りトレロ(左)。左側一番下は復刻版トレロの箱。箱も当時の雰囲気を出しています。右は新旧トレロの比較。

神がW杯でトレロタイプのスパイクを使ったのは、86年メキシコ大会です(84年ぐらいからナポリでも履いていたようです)。初戦(対韓国)、神の手、5人抜きのイングランド戦(図4左)、準決勝(対ベルギー)、決勝(対西ドイツ)の4試合で黒に白ラインのトレロモデルを履いており、歴史的名場面を生んだスパイクと言えます。

トレロの黒白タイプは、通常モデルとしては結局発売されず、87年に神特別仕様として限定発売されました(図4右)。サイズは26センチしかなく、大きさ的には私でも履くことは可能でしたが、価格的に先立つものがなく、当時購入することはありませんでした。

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 4 86W杯イングランド戦の神(左)、(サッカーマガジン1986年夏季号p45)。87年に発売された神モデルの広告(右)。
 

トレロの場合、運良く同じモデルを5つも購入できたのですが、神特別モデルは1サイズ限定品で流通数も少なく、今さら見つかるはずがないと思っていたためか、不覚にもヤフオクに出品されているのを見逃してしまいました(図5左)。とても心残りでしたが、リペア工房アモール・竹本さんに、トレロの一つを神特別モデルのように改造していただきました(右)。

いつか、本物の神特別モデルを手にして、改造トレロと並べて見比べてみたいものです。どなたかお持ちの方がおられたら、譲って下さいとは申しませんので、改造トレロを隣に並べて写真を撮らせていただければと思います。

スパイク本を書けば、きっとこのようなお願いができる機会があるかもしれないと思っていましたので、一つの目標が果たせて嬉しい限りです。 

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 図5 ヤフオクに出品された87年発売の神特別モデル(左)。決してメキシコライトではありません。トレロの改造前(右上)と改造後(右下)。

さて、プロフェッショナルを譲っていただいたマレーシアの人は、飾ってはいませんが、プーマスパイクも山ほどお持ちで、ネットで図6の画像を見つけた時は衝撃を受けました。
もちろん、私は上の右3つにしか興味はなく、それについてはまたいずれ書きたいと思います。

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図6 マレーシアの人が「King Combo(キング盛り合わせ?)」として売りに出していた画像。ソールの写真しかありませんでしたが、びっくりしました。


次回は初アディダス編で、3マテリアルソールのアディダス・ワールドカップシリーズをご紹介します。



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神に愛された西独製サッカースパイク』
80年代に数々の伝説を生んだサッカー界のスーパースターを足元から考察した論考。