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人生は実験。失敗しても「楽しい」仕事の選択を。世界一の捕手が選んだ、後悔しない人生の歩み方【里崎智也トークセッション・後編】

総合人材サービス、パーソルグループのパーソルキャリアが運営する転職サービス「DODA」は5月25日、パシフィックリーグマーケティングと都内でスポーツ業界への転職希望者向けのイベント「パ・リーグ キャリアフォーラム」を開催し、1,424名が来場した。パ・リーグ6球団に加え、Jリーグのヴィッセル神戸や川崎フロンターレ、Bリーグの栃木ブレックスや横浜ビー・コルセアーズ、卓球のTリーグやコナミ、スポナビのワイズ・スポーツなどがブースを出展。 スペシャルトークセッションには元千葉ロッテマリーンズの野球評論家・里崎智也氏が登壇し、DODA編集長の大浦征也氏とビジネスをテーマに対談した。辛口解説でおなじみの里崎氏だからこそ生まれる“ホンネトーク”が終始炸裂。この後編では、自らが体現する、ビジネスの世界でやりたいことを実現するための方法や、後悔しない人生の歩み方について熱く語った。

Icon 1482131451808 佐藤 主祥 | 2018/06/11

監督が率先してサービスを提供する。里崎智也が感じた、チームを良い方向に導くためのリーダーの在り方

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大浦:本日のテーマは、スポーツ業界の「人と組織」ということですが、里崎さんは現役時代、選手として球団職員の方々に感じていたことが何かあれば教えてください。

里崎:選手と球団フロント、そして営業の方たちとの間にある壁が厚すぎる、ということは感じていました。

球団側が「試合に影響したら困る」と僕らに気を遣いすぎて、声をかけてくる人がいないんです。なので、同じ球団に所属しているのに名前も知らなければ、どういう仕事をしている人なのかも分からない職員がたくさんいました。

そういう人間関係が続いていくことで、知らず知らずのうちに本当に大きな壁になっていったんです。

大浦:なるほど。当イベントでは先程、川崎フロンターレの職員の方が選手にシーズン中でもファンサービスをさせるというお話をされていました。里崎さんが仰るように、それほど球団と選手の接点がないとなると、ファンサービスのようなファンとの接点をつくる機会を生み出すことは難しかったのではないですか?

里崎:確かに、今のマリーンズはファンサービスが多いですが、僕が入団した直後の時代はファンと交流する場が少なかったように思います。

それに加えて、選手って結構時間がないというのも理由としてあるんです。レギュラーシーズンは基本、6連戦で月曜日が休みという形が多いので、1ヶ月で考えると試合がない日が4日ありますよね。ただ、月曜日は移動日であることも多いので、24時間丸々休みっていう日は月に1日くらいしかないんです。

試合日に関しても、18時からのナイターでも12時には球場入りします。そこから各々で練習やマッサージなど準備をして、試合直前にはミーティングや全体練習をこなしていく。試合後も、僕は捕手なので、明日に向けてデータの収集やその日の試合映像のチェック、そこからまた体の治療をして、ようやく球場を出るので、家に帰る頃には夜中の12時を過ぎてしまうんです。拘束時間としては、1日約12時間ありますね。

なので、ファンサービスも含めて「何かやってほしい」と頼まれても、選手側は切羽詰まって何もできないんです。

大浦:確かに、他の作業に割く時間すらありませんね。

里崎:もちろん定期的にファンサービスはしていきますが、主力メンバーに関しては常に参加することは難しかったんです。

でも、2004年にボビー・バレンタインさんが監督に就任してからは変わりましたよ。

まず監督は、たとえ主力でも毎日試合に出すことはないんです。

大浦:いわゆる、“アメリカ式”ですね。

里崎:はい。その試合で3本ヒットを打ったとしても、明日は休みだったり。この方法は、シーズンが終盤に進んでいくに連れて一気にチーム力を上げていく、というスタイルなんです。競馬で言うと「追い込み方」ですね。

なので、特に序盤は本当に楽なんですよ。はじめは「何でホームラン打ったのに使わないんだ」って反発しましたが、全員そのやり方だから、もう「仕方ないな」って思っちゃうんです。だから逆に、それを良い方向に捉えて、普段できない練習をしたり、ファンサービスをする時間に当てることに使っていったんです。

それに、監督自身が試合前に社交ダンスを踊ったりするんですよ(笑)。チームのトップが率先してファンサービスをしているので、選手としてもファンとの交流がやりやすい環境になっていきました。

これはビジネスにおいても言えることで、リーダーの行動がその組織の在り方を左右する。だからこそ監督の行動は、組織を良い方向に導くリーダーシップのお手本と言えるのではないでしょうか。

夢をあえて周りに公言する。成功に近づくための「有言実行」な生き方

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大浦:チーム方針や経営理念をリーダー自らが率先して体現する。これは組織全体にその理念を浸透させるために不可欠なのではないかと思います。ちなみに里崎さんは今後、監督を目指されていたりするのでしょうか?

里崎:大浦さんは、僕が監督になるっていう目標を言ったら、どう思います?

大浦:それは、里崎さんならできると思います。

里崎:ありがとうございます。ただ、自分で言うのもアレですけど、僕が監督を目指すって言ったら、大多数の人は大浦さんのように「できそうだな」って思っていただける気がするんです。

大浦:はい、確かに思います。里崎さんは実績はもちろん、豊富な知識や野球の観察力・洞察力が素晴らしい方だと思うので。

里崎:そう言っていただけて嬉しいです。ただ、僕からすると、周りにできそうって思われることを達成してもあまり嬉しいとは思いません。何故なら、どういう生き方になるのかが何となく想像できてしまうから。

なので今、僕が死ぬまでに達成したい最終目標として宣言しているのが、千葉ロッテマリーンズの社長になることなんです。

今まで引退した選手がGM(ゼネラルマネージャー)になることはあったんですけど、実は球団社長になった例はないんですよ。

僕は「プロ野球の長い歴史の中で誰も成し得なかったことをしたい」「誰も到達したことのない山に登りたい」と思っているので、この夢をそこかしこで話すようにしているんです。

大浦:なるほど。夢を公言する、というのは昔から意識してやってこられたんですか?

里崎:実際にやり始めたのは引退後ですね。昨年に『エリートの倒し方――天才じゃなくても世界一になれた僕の思考術50』という本を出しているんですけど、僕はもともとビジネス本を出したい願望があったんですね。

でもプロ野球選手に出版社から「ビジネス本出しませんか?」ってオファーがくるわけないじゃないですか。だから引退した後に「ビジネス本出したいんです」って会う人全員に言いまくったんです。

実際にそれを続けていったら、協力してくれる方が現れたんですよ。仲の良い知り合いがビジネス本に強い出版社の人を紹介してくれたんです。

あとはもう、自分で売り込みに行くだけですよ。その出版社に実際に出向いて、編集者に「こんな知識ありますよ」って1時間くらいプレゼンしましたからね(笑)

大浦:え、ビジネスについてですか!?

里崎:もちろんそうです。ずっと喋っていたら「面白いね!」って評価してもらって、企画を通して書くことになった本が『エリートの倒し方』なんです。

大浦:それは凄いですね(笑)

里崎:実際に「僕はこれをやりたいんです」って人に話すことによって、周りが知っているから逃げ道がなくなります。なので頑張れる要因にもなるんです。

「公言して実現できなかったらどうするんですか?」ってよく聞かれるんですけど、少し失礼な言い方になってしまいますが、世間はそれほど1人の人間に対して興味はありません(笑)。もし公言したことを実現できなくても、興味がないから数日後には忘れていますよ(笑)。

なので、僕が生きていくうえで大切にしていることは「有言実行」なんです。

日本人は不言実行が格好いいと思いがちですが、不言実行が一番ダメなんですよ。何故かというと、夢を公言しないから、周りはその夢を知らないので、実現できなくても「仕方がない」と自己完結してしまう。それだと自分の中で言い訳を作って終わるだけなので、それ以上の成長がないんですよ。

先程も言いましたが、僕が「ロッテの社長になりたい」と宣言しても、極端に言うと僕は総理大臣のような偉い人間ではないので、皆さん来週には100%忘れています(笑)。ただし、公言した夢が達成された時には「アイツ凄いな」ってめちゃくちゃ反響があります。

だから有言実行はノーリスクハイリターンなんです。

もし皆さんの中に絶対に成し遂げたい夢があるのでしたら、まずは身近な友達や家族でいいので、口に出して話すことをオススメしますよ。

「強いところより出られるところ」に入る。里崎智也が自分のスキルを高めるために選んだ方法

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大浦:ありがとうございます。皆さんも「社長になってやる」「転職してこんな事業を立ち上げるんだ」と大きいことを宣言してみるといいかもしれないですね。ただ、おそらく皆さんからすると、里崎さんは特別な人というか、「里崎智也だからできる」というように見られている方もいらっしゃると思うんです。

里崎:なるほど。ただ僕は、そういう意味でいうと「選択すること」がうまかったから、ここまでのキャリアを形成できた、ということが言えると思います。

大浦:というと?

里崎:僕の現役時代のモットーは「強いところより出られるところ」に入ることなんです。要するに、巨人のように強いチームに入って自分が補欠だったら意味がない。弱小でもいいから自分が最前線で勝負できるチームに入った方がよっぽどいい、ということです。

ただし弱いチームに入ると、皆さんお分かりの通り戦力が乏しいので、優勝するのは厳しくなります。でも層が薄いから、出場できるチャンスは圧倒的に増えるわけですよね。そうしたら、自分がいい選手になってチームを強くすればいい話なんです。

僕自身、高校時代は最後の甲子園地区予選で3回戦敗退。しかも0-7でコールド負けです。その後入学した帝京大学も、入った時は10年間優勝から遠ざかっていて、僕が3年生の時に久しぶりに優勝することができましたけど、次に頂点に立ったのが昨年の秋。20年ぶりです。

ロッテ時代も、2005年にはプレーオフ制度(現クライマックス・シリーズ、以降CS)の導入によってリーグ戦優勝という形になりましたけど、同年のリーグ戦は実質2位。同じく“下克上”と呼ばれて日本一になった2010年も、リーグ戦自体は滑り込みの3位で、まともに優勝したとなるとロッテオリオンズ時代の1974年にまで遡ります。

強いチームで出場できるのが一番いいんですけど、もともと僕はそこまで能力が高くなかったので、「強いところより出られるところ」を選び、経験を積みました。徐々に自分のスキルを高めていくことで、気がついたらWBC(ワールドベースボールクラシック)の代表に選ばれて、世界一になっちゃったんですよね(笑)

大浦:世界一になっちゃったんですね(笑)。でも里崎さんの話を聞いていると、たとえ現時点で能力が低かったとしても、最前線で仕事ができる場所で自分を磨けば可能性を無限に伸ばすことができる。そんな大きな夢を抱くことができますね。では最後に、これから新たな道を進んでいこうとしている方に向けて、一言メッセージをお願いします。

里崎:はい。皆さんには「つらい経験をした時に、楽しいと思えることがあったからこそ今日がある」。そう思える人生を歩んでいってほしいですね。

僕自身、たとえ失敗しても終わった後に「楽しかった」って思える仕事をやり続けようと決めているので、そのためならどんなに大変な準備もしますし、何でも研究します。

僕はここまで生きていて、「人生は実験」だなと思うんですよ。

人生は一度きりですから、想像できる未来より、何が起こるか分からないような大きいことに挑戦する方が楽しいなと。失敗したら、その経験を糧にまた実験を繰り返すんです。

反省はしても後悔はしないような選択をして、死ぬ時には「この実験楽しかったな」って思いながら生涯を終えたいから。皆さんも、そんな楽しい実験を積み重ねていってほしいと思います。(了)


文・写真/佐藤主祥

取材協力/パーソルキャリア